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コロこと胡炉玉命(コロタマノミコト)は最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)とその執事である思兼命(おもいかねのみこと)により目覚めさせられ、自分が『サッカーボールの神』であることを知らされる。
コロを、サッカーの天才と称される飛鳥井雅に宿らせようと計画していた天照達だったが、それを知る由もないコロは無意識のうちに藤原成という少年に宿ってしまった。
成と共に生きる条件として、全国中学校サッカー大会予選突破を約束させられ、叶わぬ場合は成の命が奪われることとなってしまう。
コロは成を一流の選手に育て上げ、成の命を守ると決意を固める。
しかし成と暮らし始めて1週間、コロは自分の力の無さを痛感していた。
そんな折天照が現れて、1つ能力を与えてくれるという。
期待に胸を膨らませるコロであったが、どれも現実味のない使えないものばかり。
不満をぶつけるコロに執事の思兼は逆に尋ねる。
「ではコロ様は、どんな能力お望みですか」と。
コロが望む能力とは――?
コロ!! あらすじ
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2-3
「ボク、成と喋りたい。喋れるようになりたい。成は指導者に恵まれれば、きっと凄い選手になれるよ。ボクには分かるんだ」
「はあ? 何言ってんの? タマコロは本当にバカコロね」
「ボクは思兼様に言ってるんですけど? 天照様は、どうぞ行儀よく黙っていてくださいな!」
「あのね、能力を与えるのは私よ、わ、た、し。なんで黙らなきゃいけないのよ。いい? アホコロ。 中学生がボールと話しだしたら、それこそどうなると思うのよ。イタすぎてイタすぎて笑われちゃうわ。中学二年生が、本当に中二病(ちゅうにびょう)にかかっちゃうのよ? 藤原成は頭がおかしくなったと笑われること、受け合いよ。いや、笑われるならまだいいわ。ドン引きよドン引き。チームメイトやクラスの女子からひそひそ言いたい放題言われるのよ。マンガの見過ぎよイッターイって。で、大人になってからそんなイタタな自分を思い出して、毛布にくるまってもんどりうつのよ。辛いわよお。過去の自分をコロしたくなるわよお。同窓会にも出られないわよお。思春期に変なコンプレックスがあるせいで結婚もままならないわね。それもこれも全部あんたのせい。私に散々ひどいこと言っておいて、あんたの方がよっぽどひどいじゃないの。タマコロ、あんた宿主を貶めたいの? 黒歴史をプレゼントしてあげたいの? ああ、なんて無慈悲なタマコロだこと。私も真っ青な鬼畜っぷりね。これからはどうぞキチコロとでも名乗りなさいな」
「ううう……」
言われてみればその通りだ。ボールに話しかけるなんて、マンガの中だけで十分だ。
このアホ天照にズバリ指摘され、コロは悔しさで、自身を構成する白黒の柄まで変わってしまいそうである。
「お二方とも自分の事しか考えていなかった、ということですな」
思兼が、醜く罵りあう愚かな二神を斬り捨てる。
「ただ、こうしては如何でしょう?」
困った時の思兼様だ。きっとよいアイデアに違いない。
「コロ様は藤原成と話す事ができるようになります。ただしそれは、夢の中でのみ」
「夢の中?」

コロは天照と、思わずハモる。
「左様でございます。二人が話すことが可能なのは夢の中においてのみ。朝目覚めれば、藤原成少年はその事を忘れてしまいます」
「それじゃあ意味がないような……」
「そこは救済措置を施します。ことサッカーに関連する知識においてのみ、藤原少年は覚えていることとしましょう。スポーツの知識やテクニックは、いつの間にか身についているものでしょう? 本人も違和感を感じないようにチューニングしましょう」
「そんな都合のいいことが……」
「可能です。先ほどコロ様は姫に「その能力は、今適当に考えたものだろう?」と問うたはずです。それは正しくその通り。姫は適当に考えたことでも、それを具体化してしまう力がおありです」
「えええっ?」
「馬鹿な声を出すでない、このバカコロめ!」
突然乱暴な内容を叫んだのは天照、ではない。今丁寧に喋っていたはずの思兼命だ。
全くもって脈絡の無い怒声に驚くコロをよそに、思兼はさらに語気を強め言葉を続ける。
「先ほどから聞いていれば、姫に向かってなんたる態度。不敬千万極まりない。序列最下位、赤子同然の神風情が、見目麗しき姫の御身の拝謁かなうという一事をとっても、恩沢洪大であることが分からぬか! 本来お前のようなアホボケタマコロでは、お声を聞くことすら叶わぬ存在。そこに控え、ありがたくお力を頂戴するのだ。さすれば姫は先ほど私が言ったことを、寸分違わず叶えるであろう。さあ姫様、この阿呆なタマコロに、天照大神様の偉大な神力を示しておあげなされ。私が先ほど言った通りに。くれぐれも、くれぐれも寸分違わず言った通りに」
ああ、これはあれだ。
初めて出会った時にやったあれだ。お芝居だ。
それにしても「アホボケタマコロ」とは言い過ぎではないだろうか?
まあ今は、それをいっている場合でもない。
コロは思兼の策に全力でのる。
「へへええ、大変失礼つかまつりましたでありやした。偉大なる神、天照大御神様、どうぞボク様めにお力をお与えください。へへええ」
コロはなれない言葉を使い、精一杯へり下ってみた。
するとどうだろう。天照は満面の笑みを浮かべている。
知性も慈愛も全く感じられない、ただの阿呆のそれである。
こんな簡単な芝居にひっかかるのも、このアホづらを見れば納得だ。
「ふふん、ありがたく受け取りなさい。いくわよ」
そう言いコロの頭に手を置くと、天照は大きく息を吸った。
「天の神様の、い、う、と、お、り。それっ!」
「うげえっ」

訳の分からない呪文の後、コロはまたしても天照に痛烈なビンタをうけ、部屋中を跳ね回った。
そして先刻同様、再び思兼にキャッチされ、天地反転の状態で彼の言葉を聞く。
ボールに上も下もない、といってしまえばそれまでではあるが。
「おめでとうございます。これでコロ様は、新たな力を授かりました。藤原成が眠っている間、コロ様は彼の夢の中に入り、会話をすることが可能です。初めはあちらも面食らい、まともに話せるようになるまで少し時間がかかるでしょう。なに、それもほんの数日のことです。きっとすぐに慣れるはず。早速今夜から試してみればよろしいかと」

本当にあれだけのことで、自分に新たな能力が備わったのだろうか。
であれば、目の前の天照は、阿呆の化身ではなく本当に凄い神様なのかもしれない。
「こんな地味な力より、雷殺人シュートの方がよかったのにな」
当の本人は、スマホをいじくりながら、ぶつぶつ物騒なことを言っている。
「まあせいぜい頑張ることね。また見にくるからね。私も暇じゃ無いんだから、次までに私たちを喜ばせるような、スペシャルな土産を用意しときなさい。むむむ? クッシーからLINEが……、ああっ! ポカモン、ゲットだぜ!」
天照は好きにくっちゃべると、スマホのレーダーで補足したポカモンを探しに旅立った。

因みにポカモンとは、スマートフォンでプレイできるポカモンGOというゲームに登場するモンスターの総称で、その土地土地で多彩なポカモンを手に入れて遊ぶことができる。
GPSを利用したゲームシステムのため、実際に自分の足でモンスターを探すところが従来のゲームとは一線を画し、瞬く間に世界的ブームとなった。
街中の、普段特に人が集まらないような何でもない場所に人が集まり、皆が一心にスマートフォンを操作していたのなら、それはポカモンGOをプレイしている人々とみて間違いない。
年齢層も幅広く、小さな子供から老人までが、ポカモンGOに興じている。
だが、まさか神までもがプレイしているとは、誰も夢にも思わないだろう。
「それでは、私も帰るとしましょう」
思兼はコロを成の隣に優しく置き、窓辺へ向かう。
「思兼様――」
コロは、その背中に声をかけた。思うに思兼と二神きりで話す機会は、中々訪れないかもしれないからだ。
きっとあいつへの対応でそれどころではない。
「ボクったら、ちゃんとやれるんでしょうか? 成をどうにかして、導いてあげたいんだ。絶対に失敗したくないんだ。それはもちろん自分のためじゃなく、他ならない成の為に――」
別に自分が神でなくなっても構わない。それはもう怖くない。
でもここまでサッカーを愛する少年がいるのだ。
それによりコロの心は救われたのだ。
なんとか力になってあげられないだろうか。
「藤原成は姫のいう通り、確かに凡庸と言えるでしょう」
窓辺に差し込む月明かりに銀髪を光らせ、思兼はコロにはっきりとそう告げる。
「しかしスポーツに限らずどんな分野でも、十四、五歳で突然才能が開花するように見える者が多い。今まで全く目立たなかったにも関わらず、です。何故だと思いますか?」
「うーん、やっぱり眠れる才能?」
「コロ様は、眠れる才能がお好きですな」
ほっほっほ、と思兼は笑う。
「しかし違います。眠れる才能などありません。そんなものがあれば、もっと小さい頃から目覚めているはずです。世界の著名な名手達――レジェンドと呼ばれる彼らの幼い頃の映像を見れば、それは明らかです。同年代の子供達が、束になっても相手にならない。素質や才能は、眠りなどしません。おぎゃあと生まれたその時その瞬間から、爛々と輝いているものです。では思春期に、突然その才能が開花するように見えるのは何故か。それがさも眠っていたように見える者がいるのは、一体何故なのか。それには少し、昔の歴史を勉強しなくてはなりません。古来日本には元服というものがありました」
「えっと、たしか昔の成人式?」
コロは、頭の中にインプットされたデータを引っ張り出す。
「エクセレント!」
思兼は突然大声をだし、コロの体はびくりと震えた。
この神は唐突に叫ぶから、なんだか怖い。
おまけに、体勢に無理のある、変なポーズまでとっている。
面食らうコロなどそしらぬ顔で、思兼は話を続ける。
「昔の男子は、元服の儀式をもって成人としました。社へ行き、神の御前にて儀式を執り行うのです。それを経て、大人であると認められたのです。人間からも、そして神からも」
「ああ、なんだかヘンテコな帽子をかぶったりするやつですね?」
「武家であるか公家であるかによっても違いましたが、概ねその通りといってよいでしょう。さてその元服を行う年齢です。昔はそれがちょうど十四、五歳だったのです。それがいつしか二十歳――数年後の2022年からは十八歳ですか――に変わってしまいました。しかし神からすれば、人間が勝手に決めた年齢は関係ありません。我々は十四、五歳――、つまり今でいう中学生の男女を、成人しているとみなすのです。そしてもう一つ大事な点があります」
思兼は、ぴしりと人差し指を立てる。
「それは、「神は子供には宿らない」ということです」
「ええっ。なんだかショック。夢が潰れるなあ」
「人間が神に幻想を抱くのは勝手ですが、こちらにも事情というものがあります。神の数は八百万。今や一億人を超えるこの国の人々全てに、宿るわけにはいきません。なにせそのへんの石ころにすら、宿らなければならぬこともあるのですから。子供になぞリソースを割いておれないのです。そういうわけで、たまに例外はあれど神が宿るのは、神が成人したと判断した十四、五歳以上の人間だけなのです」
「なるほど、ボクが成に宿ることができたのは、そういう理由だったんですね。まてよ、そうか! だから中学校の最後の大会なんかで、突然才能が開花したかのように見える子がいるんだ! その子にはなんらかの神様が宿ったということか。そうですよね、思兼様?」
「エクセレント!」と、また突然思兼が吠える。
「あれ? でもさっき、神の力なんてたいしたことないって……」
「その通り。ここで重要なことは、宿る神の力それそのものではありません。大切なのは宿主側の資質にあります。後発的に伸びる彼らには、確かに人間の目に見えるスポーツに関する才能はないのかもしれません。しかし目の届かぬ宇宙の彼方でも、確かに光輝く星はあるのです。彼らの共通項として、「神に愛される」という特質があります。魚が清流を好むように、神もまた清い心を持った者を好みます。その点でみれば、藤原成は非の打ち所がないように思えます」
「それはもちろん! 成の心は暖かくて、とても清潔だよ!」
やっと成が褒められて、コロは涙がでるほど嬉しくなる。
「そしてもう一つ――、これがとても大切なところです」
思兼の目が真剣みを増す。
「それは「神の言葉を正しく聞くことができる」ということです。もちろん神の言葉は人間の耳には聞こえません。しかし神の想いを無意識のうちに感じ取ることができる者は、何をやらせても伸びます。微々たるものとはいえ、24時間365日、神の恩恵にさずかれるのですから。ですが幼い頃から自身の資質のみにまかせてやってきた者には、これがない。彼らのプレーに魅了されて、せっかく宿った神がいるというのに、その声に耳を傾けなければ、宝の――、いや、神の持ちぐされというものです。高校ではベンチを温めるだけであった選手が、日本代表になるまでに成長することがあるのも、これによるところが大きいでしょう。後天的に伸びやすいというわけです。この才能は、人間には目に見えないどころか認識すらされていません。まあ当然といえば当然です。本来の意味で神を信じれる者など、現代では中々おりません。まことに遺憾なことですが」
老執事は、自嘲するようにため息をついた。
「そっちの才能も、成は持っているということですか? 実はやっぱり天才ちゃんだったりして!」
「それは分かりません。なにしろまだ、宿って一週間ですから」
「そっか、そうですよね……」
言われてみればその通りだ。
「しかしコロ様、私は関心したのです。やはりあなたは正しくサッカーボールの神なのでしょう。大切なことを、肌で分かっておいでのようだ」
突然の賞賛に、思わずコロはドギマギする。関心されるようなことをしただろうか?
「コロ様は、藤原成と話がしたいと仰った。それは正に、本質をついているといえるのではないでしょうか? 神からの恩恵を加速度的に増幅させる効果が、これに期待できます。まあそもそも、姫おすすめの能力では、この少年の体が保たなかったでしょう」
「ボクったら、結構なファインプレーだったりした?」
「ええ、どうなることかと思いましたが、大逆点ゴールでしたな。さて、話が長くなってしまいました。さっそく夢の世界へ行かれるとよいでしょう。先ほど述べた通り、最初は彼に驚かれるかもしれません。まあまだ時間はございますから、根気よく続けられるのがよろしいかと」
成に驚かれる――。
想像してみると、それさえワクワク胸が踊る。
成に自分の存在を知らせることができる。
びっくりされるくらい、なんだというのだ。
目覚めた後忘れられるというのが少し寂しい気はするが、贅沢は言えない。
「じゃあ行ってきます。成と喋れるなんて夢みたい。いや、夢で喋るわけだから夢なのか。まあいいや。思兼命様、ありがとう。そしておやすみなさい」
「良き夢を見られますよう」
月明かりに銀光する思兼が、恭しく頭を下げる。 その滑らかでゆったりとした所作に合わせるかのように、コロは夢の世界へと落ちていった――。
コロ!! 第二章 了

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