コロ!! 2−1話

コロ(小説)

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朗読小説【コロ!!】 2章 第1話「新能力」

コロ!! これまでのお話

コロこと胡炉玉命(コロタマノミコト)は最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)とその執事である思兼命(おもいかねのみこと)により目覚めさせられ、自分が『サッカーボールの神』であることを知らされる。

コロを、サッカーの天才と称される飛鳥井雅(あすかいみやび)に宿らせようと計画していた天照達だったが、それを知る由もないコロは無意識のうちに藤原成(ふじわらなり)という少年に宿ってしまった。

成(なり)と共に生きる条件として、全国中学校サッカー大会予選突破を約束させられ、叶わぬ場合は成の命が奪われることとなってしまう。

成を一流の選手に育て上げ、コロは宿主である成の命を守ことができるのだろうか?

コロ!! あらすじ

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コロ!! 1−4話
朗読動画はこちら↓(※音がでます)コロ!! これまでのお話コロこと胡炉玉命(コロタマノミコト)は最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)とその執事である思兼命(おもいかねのみこと)により目覚めさせられ、自分...

2-1

「困った。困った困った。困ったまいったどうしよう」

 成(なり)に宿って一週間、コロは成の隣でコロコロと困っていた。

 時刻はもう夜半過ぎ。

 成本人はとっくに自室のベッドの上で、すやすや寝息をたてている。

「うーん困ったなあ。本当に困った。眠たくないけれど、ボクも寝てしまおう。ぐう」

「困ってるなら寝てるんじゃないわよ、バカコロ!」

「うわあっ!」

 突然何者かに弾き飛ばされ、コロの体は部屋の壁に叩きつけられる。

 なんだか覚えのある衝撃と、声色だ――、コロはあたりを跳ね回りながら嫌な予感に囚われた。

「困った困ったうるさいのよ、あんた。そこらじゅうの神社から苦情が来たじゃないのよ」

 見れば天照大御神(あまてらすおおみかみ)と思兼命(おもいかねのみこと)が、揃って成の自室にいるではないか。

「ああっ! あ、現れたな、この悪魔め!」

 指一本触れさせるかと、コロは体を天照(あまてらす)と成の間に入れ、きゃんきゃんと吠えた。

「誰に口聞いてるのよ、このバカタマコロ。日の本最高神を捕まえて悪魔だなんて、いい度胸してるわね。お望み通りなってやろうかしら? あんたにとって最悪の悪魔にね」

「もうなってるよお、この神でなしめ――むぐぐぐ」

 すでにコロは、天照にむぎゅうと踏みつけられている。

「コロ様、姫はコロ様がお困りなのを心配なさって参られたのです。本当はお優しい方なのです……」

 思兼(おもいかね)は以前と同じセリフを口にし、あるのかないのかわからない細い目を閉じふむふむと頷く。だが、絶対に嘘に決まっている。

「お言葉ですが思兼命様、もうその言葉には騙されませんよ。こないだ誤魔化して逃げたくせに。ええい足をどけろ、この洗濯い――、むぐぐぐぐ」

 コロの反抗も虚しく、天照は更に凄まじい力でコロを踏みつけてくる。

 そういえば、洗濯板は禁句だったか。

「ほら、何が困ったの? 聞いてやるからさっさと話しなさい。ほら、ほらほらほらほら」

「むぐう。わ、分かった、話すから足をどけておくれよお」

 そうコロが懇願すると、何故か更に強く、そして捩じ切るように入念に踏みつけた後、やっとのことで解放された。

 のっけからこんなにまで乱暴をしておいて、「お茶くらいだしなさいよね」などとのたまっている。

 まったくもってとんでもないヤツだ。

 だが、とんでもないやつではあるが、考えてみれば相談することができるのもこの二神だけなのだ。

 コロには他に神の知り合いがいないし、いても成のそばを離れて話しに行くことはできない。もちろん人間ともしゃべれない。

 この全く信用できない二神に尋ねるより他、道はなかった。

「まず成の説明からするね」

 思兼クセがうつったのだろうか? コロはゴホンと、する必要のない咳払いをはさみ、宿主についての説明を始めた。

「まず知っての通り、今ここで眠っているこの少年の名前は「藤原成」。現在中学二年生で、サッカー部に所属してる。こないだ引退した3年生に変わって、チームのキャプテンを任されているんだ、すごいでしょ? 前に天照が言ってたけど――」

「天照大御神様――、でしょ?」

 天照がギロリと睨む。

 やれやれ、こいつとケンカをしていては、話が前に進まない。

 コロは止むなく天照の指摘に応じる。

「唯一無二の神にして大天才の天照大御神様があ、なんか仰ってましたけれどお、成は全然凡庸なんかじゃあありませんでしたよーだ」

「その舐めた喋り方を辞めないと、空気を抜いて高天原の犬に食べさせるわよ」

「ちぇ、わかったよ。でもね、本当に成は全然凡庸なんかじゃあなかったんだ。そりゃあプロ育成機関であるジュニアユースのチームなんかでは、まだまだ通用しないけれど、部活動のサッカープレイヤーの中じゃあ、本当に上手な方なんだよ」

「あのねえ、それを凡庸だというのよ。あんな中学の部活動レベルで上手い子なんて、いくらでもいるわ。欲しかったのはそのトップのジュニアユースチームでも突出できるような天賦の才だったの。この子にそれは、流石にないでしょう? 話のレベルが違うのよ、レベルが」

 ユースチームとは、若手の育成を目的とした、プロチームの下部組織のことだ。

 選りすぐりの天才が集まり、幼い頃より熾烈な競争が行われている。

 その実力、練習内容共に、中学生の部活動のレベルとは一線を画している。

 日が暮れても使える照明設備が整った夜間コートや、寮まで用意している所も多い。

 食事の管理等も徹底され、学校と提携し試合の日は公欠扱いになったりするなど、プロを育てるために各チームが、ユースの育成に投資しているのだ。

 プロになるような選手は、早ければ小学生の頃からこれに所属していることが多い。

 たしかに今の成では、そこに入るためのテストである、セレクションを受けることすらも敵わないかもしれない。

「まあいいわよ。どうせ飛鳥井(あすかい)を逃した時に、諦めてるしね。それで、あんたは一体、何が困ったっていうのよ?」

 そうだった。

 コロは本当に困っているのだ。

「問題は成じゃない、ボク自身のことなんだ。びっくりしたよ。ボクにできることなんて、数えるほどしかないじゃないか。ボクったらとんでもない無能だったんだ。ダメコロちゃんだったんだよっ!」

 成と生活を共にすることになったコロは、成の通常の部活動を体験した。

 成と共にサッカーに関わることができるということは、コロにとって純粋な喜びだった。部活の時間が、ただただ待ち遠しかった。

 だが共にプレイする数を重ねるごとに、コロには不満がつのる。

 それは勿論、成に対してではない。

 自分自身のふがいなさ故であった。

「ボクが成に宿って、確かに成はサッカー選手として上手になったよ。ボールの気持ちが分かるようになり、こぼれ球への嗅覚が鋭くなった。ゴール前でこぼれたボールを押し込める回数が格段に上がったんだ。他にも、ボールタッチが柔らかくなり、コントロールの精度が上がった。それらは周りのチームメイトから褒められることでも分かったし、自分の能力によるものと、そうでないものの違いもボクには感覚で分かる。でもそれだけ? ボクが宿ることによって成が得られるものって、たったこれだけのことなのかい? 本当はもっと凄い能力で、彼を上達させられるんだろう? ボクったら、実はまだ眠った力があって、その使い方を知らないだけなんだろう?」

 コロは恐る恐る天照の顔を見る。

 するとどうだろう。

 あの、人をバカにした知性の感じられない表情は消え、優しさに溢れたそれに変わっている。

「ああ、胡炉玉命(コロタマノミコト)、胡炉玉命や。お前はそんなことで悩んでいたの? 可哀想なタマコロよ。今まで辛く当たってごめんなさいね。でも安心しなさい」

 天照が、コロを両手で優しく自身の眼前に掲げ語りかける。

 なんと慈愛に満ち満ちた表情か。

 なんと美しい紅蓮の瞳か。

 さすがは日の本序列一位の神様だ。

 こうして見れば、なかなか可愛いところがあるじゃない。

 藍色の髪や、緋色に燃える瞳は、美しいといってやってもよい。

 生意気な自分が悪かったのだと、少し譲歩してやることも吝かではない。

「ないわ」

「へ?」

「あんたの中に「実は神知れず眠れる才能」なんか、どこにも、1ミリも、素粒子ほども無いって言ってるのよ!」

 天照はそう言い放つと、バレーボールのアタックの要領で、コロの体をしたたかにぶった。

 バチンという音と、「うげえ」という情けない声が重なり、コロは再び成の部屋を、ピンボールよろしく跳ね回る。

「タマコロ風情が、よくぞここまで増長したものね。眠れる力ですって? 笑わせる。ドベ中のドベである八百万位の神ごときが、そんなものを持つわけがないでしょう? 片腹どころか両腹痛いわ。最下位の神の力なんて、ちっぽけなものよ。あるのかないのか分からないくらいにね。この藤原成が凡庸なら、あんたは凡庸以下。底辺中の底辺。おちこぼれ中のおちこぼれなのよ。だからこそ飛鳥井(あすかい)にしようと思ったのに、あんたが勝手にこんな子に宿るから! 前言撤回、やっぱり飛鳥井が諦められないわ。このタマコロ! バカコロ! フンコロ!」

 コロは止まる間も無く、何度も体にアタックを決められる。

 サッカーボールの神だからだろうか? 蹴られる分には構わないが、ぶたれると痛い。バレーボールの神なら心地よいのかな――、などと関係ないことを考えてしまうのは、意識が朦朧としてきたからだろうか。

「姫、姫! おやめください! 死にます、いや、もうほぼ死んでます!」

 癇癪をおこした天照は思兼命に羽交い締めにされ、やっとの事でアタック地獄は終わりを告げた。

「我々がしっかり説明もせず、下界に放り出したのが悪かったのです。無理やり叩き起こされたため、彼には欠けている情報も多い。想像していた自分の力とのギャップに落ち込むのも、無理はありません。しっかり説明してさしあげましょう」

 この間ほっぽり出されはしたが、やはり思兼は頼りになる。

 本当に死んでしまうところだった。

「ふん、勝手になさい」

 そう言うや否や、天照は成の部屋を物色し始めた。

「エロ本はどこかなあ?」などとほざいている。まったくもって、どこまでも罰当たりな女である。

 だが、神罰よ降れと願ったところで、一番偉い神はこいつなのだ。

 そんなことを考えて、コロは暗澹たる思いになる。

「コロ様大丈夫でしたか?」

「なんとか大丈夫です。それより思兼様、ボクにはやっぱり、内に眠る力なんてないんですか?」

 すがるように思兼を見つめる。

 しかし思兼の答えはやはりというべきか、コロには無情なものだった。

「残念ながら、姫の言った通りというのが答えです。たしかにどの分野でも、トップクラスにたどり着くようなスポーツ選手には、余すことなくなんらかの神が複数宿っています。ですが彼らが大成する要因のほとんどは、選手自体の、その人間自体の素質によるところが大きいのです」

「神のおかげではないってこと?」

「その通りです。神が人間に直接影響できることは、非常に限られています。大きな影響を及ぼすことができる神は、姫や、そのご家族のような、頂点に君臨する方々だけなのです。自然を司る神などは、一見とてつもない力を持つかのように見えますが、実は直接的影響は与えられません。風の精や地の精に働きかけて、あくまで間接的に人々に影響を与えることができるのです。例えば、風神が人間に宿ったからといって、その宿主が空を飛べるようになるわけではありません。そういう意味では、コロ様が藤原成に与えている影響は、決して小さいものではありません。むしろ他の神々に羨まれるような、驚嘆すべき効果を発揮しているといってよいでしょう」

「でもおかしいじゃないですか。さっき言いましたよね? トップクラスの選手になるのがその人間の素質のおかげなら、なんで神がそのトップのみんなに宿ってるんですか? やっぱりそういう選手に宿る神が、すごいからじゃないんですか?」

「いいえ、違います。そういう選手を、神は愛するのです。引き寄せられる、と言ってもいいでしょう」

「引き寄せられる?」

「左様です。神々を虜にするような、素質、才能に引き寄せられ、神はその者に宿ってしまうのです。もっともっと、そのプレーを身近で見ていたい――、そう思ってるうちに、いつの間にか宿ってしまうケースが、スポーツの場合は多いですな。しかしながらコロ様の場合は、彼のスポーツ選手としての素質ではなく、人格的美質に惹かれたのかもしれません。コロ様は藤原成に宿る前、特に彼のプレーを見ていたわけではないでしょう?」

「あ――」

 たしかにあの時、自分は成のプレーを見ていなかった。彼がコロに触れた瞬間流れ込んできた、嬉しいような、どこかもの悲しいような暖かい風に浸るうち、いつの間にか成に宿っていたのだ。

「つまりあんたは、間違えたのよ――」

 部屋の物色に飽きた天照が、大変迷惑なことに話に割り込んでくる。

「だからあんたは序列八百万位だというのよ、タマコロ。せっかくこっちで目星をつけておいてやったのに、いい年してエロ本も持たない、どこの誰とも知れない馬の骨に宿っちゃうなんてね」

「うるさいうるさい! だいたい飛鳥井って子は、あの時あの場に居なかったじゃないか。それはそっちの、リサーチ不足というものだろう?」

 それに、成を選んだことは絶対に間違いじゃない。

 この子には、底知れぬ才能があるはずだ。

 それを引き出せないのは、ボクの実力不足なはずなんだ。

 これ以上、成を悪くいわれたくはない。

「大体、なんなんだよ一体! 天照だって、文句を言うだけで何にもできないじゃないか。どうかもう放っておいておくれよ、この役立たず!」

「それは違います」

 そう言ったのは、コロの暴言に噛み付かんばかりの天照――、ではなく、思兼命その神だった。

「姫もからかってばかりおらず、ちゃんと説明してさしあげればよいものを……。コロ様、それは違います。姫は十二分にあなた様のお役にたつことができます。さあ姫、どうかご自分でご説明を」

「ふん、役立たずとはいってくれたわね、バカコロ」

 天照は息を吐き出し、腕を組み偉そうなポーズをとる。威張れると分かり嬉しそうだ。

「あんたは序列八百万位からスタート――、それはこの世の決まりというものだから変えられないわ。だけどね、このプロジェクトを立ち上げたのは、一体誰だと思ってるの? 序列一位の偉大なる超美人な神、天照大御神様なのよ。一般企業で言うのなら、「社長案件」というやつよ」

 天照は偉そうにびしりと人差指を立て、話を続ける。

「私、天照大御神様が監修ということで、多少の無理は通るのよ。爺もさっき、大きな影響は頂点の方々だけって言ってたでしょ? で、頂点中の頂点がこの私。そこでコロ、あんたに一つ、とんでもない能力を与えてあげるわ!」

「なな、なんだって! 天照様! 天照大御神様! なんて素晴らしい神様なんだ。今までごめんなさい。美人、天才、かわいい、ペチャパイ!」

 コロは思わず快哉を叫ぶ。

 とんでもない能力。それは一体どれほどのものなのか――?

「コロ!!」 2-1話 了