コロの長い説明

 

「いや、バスケットもサッカーも、二つの競技は共通する点がとても多いんだよ。相手のマークをパスやドリブルで外し、ゴールを決める。フィールドの大きさと、ボールを扱う身体の部位こそ違えど、基本的なことは同じさ。ボクは一応ボールの神なんだから、サッカー以外の他の球技であっても、それを見る目は中々に鋭いようなんだ。似ているバスケットボールなら、とっても見る目があるといっていい」

「なるほど。して、コロ様は我々に何を見せたいのですか?」

 天照がちゃちゃを入れる前に、思兼が話を前に進めてくれる。はっきりいって、非常に助かる。

「あちらはもう本格的にボールを使って、激しく練習をしているね? 二人は、あの中で一番上手で点を取れるのは、どの子だと思う?」

 男子バスケットボール部は今、ドリブルをつきながらゴール前に駆けて行き、レイアップシュートを決めるという、基礎的な練習に励んでいる。

 基本中の基本であるがゆえ、これを見るだけで、個々のボールの扱いの熟練度と、クイックネスを測ることができる。

「そんなの簡単よ。ほら、あの茶髪で髪の長い子。あの子たちの中で、空中でいろいろ動いたりできるのはあの子くらいよ」

「私も姫と同意見です。小柄だが、彼が一番センスがあるように思います。瞬発力もあり、ボールハンドリングに長けている。シュートも中々正確ですな」

 天照、思兼共に、答えは同じだ。

「うん、正解。彼が一番だ」

「なによそれ。いったいなんの質問だったのよ。またギブスアタックを叩きこまれたいの? 今度はこのバネで挟んで、細切れミンチにするわよ」

「まあまあ、まだ説明の途中だよ。本当にせっかちだなあ。それじゃあ二番目はどの子だと思う? あ、神がかり的能力を使うのは無しだよ。ちゃんと頭で考えてね」

 空っぽの頭でね、とは勿論言わない。

「二番目?」

 二神はしばし考えこむ。

「なんだかあとは似たりよったりねえ。あのモジャモジャ頭の子は明らかにトロくさいから除外するとして、――あのゴリラみたいな顔の子かしら。ほら、今シュートした子」

「ブッブー、不正解」

 そう言った瞬間、コロは弾きとばされた。

 言うまでもなく、天照の手にするセリエA養成ギブスによってである。あまりに高速すぎて見えなかった。

「あんた、マジで消滅させるわよ」

「まあまあ姫。コロ様、大丈夫ですか?」

 コロはよろよろと立ち上がる――ことはできないので、転がる。

「いててて。不正解は不正解なんだから、仕方がないじゃないか」

「言い方がムカつくのよ、バカコロ」

「なんだよそれ。理不尽だなあ。まあとにかく君が言った子は、二番目じゃあないよ。いいとこ四番目くらいだね」

「では、正解はどの子なのでしょう?」

 思兼が、天照に攻撃されないよう距離を取り警戒するコロに尋ねた。

「正解は、天照がトロくさいと言って除外した、モジャモジャ頭の子だよ」

「ええっ、あの子が二番目? 嘘おっしゃい。どう考えても補欠でしょう?」

 天照が「流石にそれはないだろう」と、素っ頓狂な声をあげる。

「確かにパッと見た感じではそう見えるよね? あ、ミニゲームが始まるよ。見てごらん」

 バスケット部のコートでは、簡単なミニゲームが始まった。

 サッカー部は、といえば、まだヨガの最中だ。

 成の体から基本的には離れられないコロも、しばし落ち着いて見ていられる。

 バスケットボール部は、ハーフコートで行う、三対三形式の短い試合を繰り返しおこなっていく。得点が入る、もしくはパスカットされる度、メンバーを入れ替えるのだ。

「あっ、モジャが決めたわ。ああっ、次はドリブルで抜いた」

 ミニゲームが始まると、天照に「モジャ」と命名されたモジャモジャ頭の少年は、ゴールの山を築いていった。

「ナイスシュート!」と他のバスケットボール部員から声が飛ぶ。

 モジャのゴール数は、一番能力が高いと見える茶髪の選手と同じくらいだ。

「なんでモジャは、あんなにすっトロいのに、ポンポン相手を抜けるのよ? チームメイトがサービスして、やられてあげてるの? あ、分かったわ。実は何か弱みを握っているのよ! まったく、悪どいモジャモジャね。天誅を下してやるわ」

 天照はそう言うなり、なにか呪文の詠唱のようなものを呟きながら人差し指を天に掲げる。

「や、やめなよ! 違うよ! 説明するから待って!」

 コロが、済んでのところでそれを止める。

 見れば天照の指先には、何か禍々しいエネルギー体が結集し、バチバチと火花をおこしているではないか。

 天照と一緒にいると、この国で起こる厄災は、すべてこいつの勘違いから生まれているような気さえしてくる。

「モジャ君より明らかに身体能力の高い子たちが、彼に負かされているね? その秘密はね、彼の体の柔らかさにあるんだ」

「なんで柔らかいと勝てるのよ。バスケなんて、瞬発力の競技じゃないの」

「おや、よく分かってるね。その通り、バスケットボールは、瞬発力がカギになる競技だ。サッカーと同じく、いやそれ以上に、五〇メートルを走る速さよりも、1メートルを一瞬で詰める素早さが求められる」

「だから、それがモジャには無いじゃない。ゼロよ、ゼロ」

「その通り。彼には瞬発力が全く無い。そのうえ五〇メートル走も、長距離走も遅いだろうね。だけどね、彼はその身体の柔軟性で、それを見事にカバーしているんだ。柔らかい身体というのは、とても自然な動きをする。具体的に言うと、フェイントやフェイクと呼ばれる動作が、圧倒的に上手い。ほら、見てごらん」

 モジャは味方のパスを受け取り、シュートを打つかの様な仕草をする。

 その滑らかな動きにつられ、ブロックせんとついつい飛んでしまったディフェンスを、モジャはゆっくり余裕を持って、ドリブルで難なく抜き去る。

 次いでモジャは、ミドルシュートを打とうとしたが、別の者のマークについていた長身のディフェンスがカバーに走り、モジャのシュートをブロックするため飛んだ。

 モジャはそれをあざ笑うかの様にシュートの動作を止め、トラベリング(※バスケットボール特有の反則。ボールを持ち3歩以上歩いてはならない)にならないようピボットターンからステップインし、カバーに来たディフェンスを躱し、イージーなレイアップシュートを決めた。

「エクセレント! 素晴らしい。見事なものですな」

 思兼が賞賛の声を上げる。

「なんであんな単純な手にひっかかるのよ? 馬鹿じゃないの? 周りのレベルが低すぎるのよ」

「いや、あれは上手くやられると、本当に止められないものなんだ。本能に訴えかけるものだから、見た目以上に厄介なんだよ。どうしても反射的に動いてしまうからね。目の前で手を叩かれると、目をつぶってしまうのと同じだ。実際、彼らは毎日モジャと対戦しているにも関わらず、あれにひっかかっているだろう?」

「ふむ、それに、あれ一辺倒にならないように工夫を凝らしているようですな」

 思兼の指摘の通り、モジャは他にも色々と工夫している。

「その通り。シュートを打つと見せかけて打たない――と見せかけて打つ。もしくは突然普通に打つ。単純な三択でも、実際に対峙している者からすれば、まるで無限の選択を押し付けられているように思えるだろうね。更に言えば、右にドリブルで抜く、左にドリブルで抜く、別の者にパスをする、という選択もある。さて、茶髪の彼の方も見てみよう」

 茶髪の選手は、誰がどう見てもバスケットボール部のエースだ。素早い動きと卓越したテクニックで、相手を一瞬で抜き去り、ゴールを量産している。

「やっぱりあの茶髪は上手ね。いい選手になるんじゃないの?」

「いや、残念ながら彼はこのままでは、上のレベルには行けない。おそらく、高校でもバスケットを続けるのなら、伸び悩むだろう」

「なんでよ、あんなに上手じゃない」

「私も、よい選手になるかと思いますが……」

 思兼も首をかしげる。

「ボクももったいないとは思うんだけどね……」

 どうやらスポーツに関しては、自分に分があるようだ。

 コロは少し得意になる。

 だが調子に乗りすぎてはまた天照に叩かれる。

 気をつけよう、とコロは体の継ぎ目を引き締めた。

「彼もたくさんフェイントを入れているね? でも誰もそれに引っ掛からない。さあ見てみて」

 茶髪の少年はパスを受け取ると、二つ三つフェイントを入れた後、ドリブルでディフェンスを抜き去りゴールを決めた。

「確かに彼は、癖でフェイントを入れてるだけに見えますな。別にそれをせずとも相手を突破できるように思えます」

「そう、あの茶髪の子はフェイントなんて入れなくても、そのスピードで相手を抜きされてしまう。だから彼は、その未熟さに気づいていない。もっと速く、もっと正確に、ということしか考えていないんだね。そうなれればもっと相手を圧倒できるはずだ、とね。残念ながらそんなあの子の体は、硬い」

 優秀な指導者がいればと、コロは思う。

 しかし、部活の顧問を担当する公立中学校の学校教員にそれを求めるのは、酷というものだろう。彼らはあくまでそれぞれの教科を担当する、学問の教師なのだ。

 才能ある選手が、優秀な指導者に出会える可能性は、この日本では極めて少ない。

「じゃあ体が柔らかくなれば、フェイントが上手くなるのね? サッカー部の連中を、タコみたいに柔らかくしてやろうかしら」

「フェイントだけじゃないさ。これはほんの一例で、他にも様々な恩恵がある。それに、ヨガはただの柔軟体操じゃないのさ。まずインナーマッスルが鍛えられる。その相乗効果でバランスのいい筋肉がつく。それになんといっても、怪我や故障が減る。どんな素晴らしい練習をしても、故障してボールが触れなくなれば意味がないからね」

 それこそ一番大事なことだと、コロは思う。

 根性論を掲げる大人は、確かに少なくなった。だが、身体トラブルの防止に本気で努める指導者は、未だ多くはない。

 部活動に励む彼らは、まだまだ成長期の、中学生なのだ。必ず誰かが、守ってやらなければならない。

「ふーん、まあ藤原成が、あの茶髪とモジャが混じったようになるなら、悪くないかもね。目指せ、茶髪モジャってわけね」

「まあそういうことでいいかな。目指すべきところはもっと上だけど。あ、サッカー部の方もそろそろ本格的な練習が始まるよ! 成の活躍を見てみてよ」