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コロ!! これまでのお話
コロこと胡炉玉命(コロタマノミコト)は最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)とその執事である思兼命(おもいかねのみこと)により目覚めさせられ、自分が『サッカーボールの神』であることを知らされる。
神の世界に関するレクチャーを受けた後、序列最下位という窮地を免れるため、コロは遂に下界に降り立とうとしていた。
コロ!! あらすじ
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コロ!! 1−3
天照大御神(あまてらすおおみかみ)と思兼命(おもいかねのみこと)に導かれ、コロは天空から地上へと降り立った。
どこか海辺の丘の上だ。潮風が強く吹いている。
寄せてはかえす波の音が心地よい。
時間は夕刻を少し過ぎた頃だろう。
黄昏時の空のカンバスには、自然の織りなすコントラストが、まるで匠の筆で描かれたかのように美しく世界を彩っている。

コロは何かを確かめるように、その場でころころと転がり、てんてんと跳ねてみた。
やはり本物の大地は違う、とコロは思わずニンマリする。初めて触れるはずなのに、不思議と懐かしさを感じている。サッカーボールの神の、本能というものかもしれない。
「さてタマコロ。あんたにはまず一人の人間に宿ってもらうわ。そしてその人間を成功に導いて、名声を高めるの。宿った者の功績は、そのままあんたの功績になる。序列には色んな上り方があるけれど、それが一番手っ取り早いわね。あんたはスポーツの神、勝てば昇格、負ければ剥奪、ってほうが分かりやすいし、なにより燃えるでしょう?」
「なるほど、確かにその通りだ。初めて君に同意できる気がするよ。だけど、いったい誰に宿ればいいんだい? ここには人っ子一人いないけれど……」
この丘から望める海や空は、確かにとても美しいけれど、人の気配のないこの場所は物悲しいといえなくもない。
「準備してるって言ってるでしょう? ほら来たわよ、見なさい!」
天照(あまてらす)が指差す方を見やると、十人ほどの男子たちが、飛び跳ねるようにこちらに駆けてくる。
中学生くらいだろうか? ずいぶんとテンションが高そうにみえる。
「終わった終わった! 今年の合宿は去年にも増して地獄だったぜ」
一人の快活そうな男子が、無邪気に叫ぶ。
「いや、3年がいないぶん、まだマシだったよ。もし先輩たちがトーナメントを敗退して、引退してなかったらと思うとゾッとする」
「そんなことあるわけないだろ。うちのサッカー部がトーナメントを勝ち抜いて、全中になんか出れるかよ」
「いやだから、もしもだよ。例えばってやつ」
夕暮れの丘陵に現れた男子達は、全国中学校サッカー大会の話をしている。
どうやらサッカー部に所属する中学生達のようだ。
合宿が終わったらしく、晴々とした表情である。
「お、なんだ? あんなところにボールがあるぞ」
なんと、別の一人がそう言うなり、こちらに向かってくるではないか。
「ええっ。あの子達、ボクが見えるの? 神様って普通、人間に見えないんじゃあ?」
コロは慌てて疑問を口にする。
「原則的にはその通りですが、今だけは彼らに見えるようにしておきました。安心して、思う存分彼らに蹴られてください。ああ、勝手に動いてはいけませんよ、びっくりされますからね。黙って蹴り飛ばされてください」
思兼(おもいかね)はにこりと笑い、そう答えた。聞く人が聞けば、危うい会話だ。
「汚いボールだなあ。まあいいか。ほらいくぞ!」
コロを見つけた男子は、そんな会話が神々の間で行われているとはつゆほども知らず、悪態をつきながらコロを勢いよく蹴り飛ばした。
「あれれ!」
コロが思わず叫ぶのも無理はない。蹴られたその瞬間、様々な情報がコロに流入してきたのだ。
年齢、身長体重、生年月日、身体能力、ボールの扱いの熟練度、サッカーにおけるポジション適正、戦術戦略の理解度、適切な栄養を採り続けた際の骨格、筋力の正確な成長予想図等々、およそサッカーに関する情報全てをコロは一瞬にして知り、同時に分析することができた。
「すごい! ボクったら、この子達のこと何でもわかっちゃう!」
「それがあんたの力の一つよ。サッカーに関する情報を分析して加護を与え、宿り主を適切に導くの。さあこの中から好きな相手を選びなさい、と言いたいところだけれど、実はもうこっちで見繕ってあるのよ。最高の逸材をね。爺、飛鳥井雅(あすかいみやび)はどの子?」
天照が、少年達に蹴られて飛び交うコロに併走しながらくっちゃべっている。
見れば思兼も、自分を挟んで逆サイドを飛んでいるではないか。
器用なものだ、とコロは変な関心をする。だが彼らからすれば何でもないことなのだろう。ボールであるコロの動きに合わせてびゅんびゅん飛び回りながら、平気な顔で会話しているのだ。
「はて、どういうわけか飛鳥井雅は見当たりませんな」
「なな、なんですって!?」
思兼の言葉に、感心するほど器用に飛んでいたはずの天照は空中でずっこけると、そのまま草むらの中へとダイブした。

それほどまでに、飛鳥井雅なる者は優秀なのだろうか?
そんな二神のやり取りを余所に、コロは別の男子の足下へ到着し、また別の少年へと蹴りだされる。受け取った少年はコロをトラップし、何度かリフティングしてまた別の少年にパスをする。
いつの間にか、皆がコロで遊び始めていた。
合宿で散々練習して疲れていても、ボールがあれば蹴ってしまう。
みんなサッカーが好きなんだ。
少年達のサッカー愛を肌で感じ、コロはとてもうれしくなった。
「しかしよー、飛鳥井(あすかい)のやつ、本当に合宿に来なかったな」
パスを回しながら一人の男子が、件の飛鳥井という少年の名を口にする。
「しょうがないさ、あいつはレベルが違うもん。俺たちとサッカーやってても仕方ないだろう。自分より下手な先輩のやっかみにも、ウンザリだったんだろう」
別の男子がそう言いながら、ふわりと浮いた球を上げた。
「でもなあ。あいつがいれば、それこそ全中出場だって夢じゃないかもしれないじゃん?」
「そんなことになったら引退が先延ばしになって、来年も合宿参加だぞ。いいのかよ?」
「げ、あいつには戻ってほしいけど、それはもう勘弁」
少年たちはそう言い、笑いあう。
どうやら飛鳥井雅なる者は、彼らのサッカー部からはすでに離れてしまったようだ。
その確認をしているのだろうか? 近頃の神は、携帯電話まで所持しているらしく、思兼はどこかに電話をかけながら、こちらに向け両手でバツを作っている。
「何やってるのよ爺! 飛鳥井がいないんなら、こんな子達に用はないでしょう? このチームは、あの子が飛び抜けているだけで、他はボンクラばかりなんだから」
天照が、コロを蹴る少年たちをこき下ろす。
彼らに聞こえないからといってひどい言いようだが、確かに今のところ、突出して才能があるサッカー部員はいないように見える。
コロは彼らに蹴られながら、部員達の分析を続けていた。
「ふむふむ、この子も悪くはないが普通――、中の上というところか」
でもそれでもよいじゃないか。彼らの心は美しい。なんだかんだと言いながら、仲間である飛鳥井雅のことを、ただただ心配しているのだということも、蹴られているコロには分かる。
天照の嘆きをよそに、そんなことを考えながら、コロはまた違う少年に蹴り上げられた。
これで九人目。
そして今から飛んでいく彼が、最後の十人目だ。
「今の子は中々よかった。どれどれ、最後のこの子は一体どうだろう?」
サッカーボールとして蹴られる喜びに、すっかりリラックスモードのコロは、残る最後の少年の足に接触する。
「あれれ!」
その瞬間、コロの脳裏に不思議な感覚が巻き起こった。

コロ!! 第1−3話 了
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