「コロ!!」 1-2話

コロ(小説)

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朗読小説【コロ!!】 1章 第2話「地上へ」

コロ!! これまでのお話

コロこと胡炉玉命(コロタマノミコト)は最高神である天照大神(あまてらすおおみかみ)とその執事である思兼命(おもいかねのみこと)により目覚めさせられ、自分は神であることを知らされる。

しかし一体自分は何の神だというのだろう?

独り考え込むコロに天照はこう告げるのだった。

「――サッカーボールの神、胡炉玉命(コロタマノミコト)よ!」と。

コロ!! あらすじ

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「コロ!!」 1-1話
朗読動画はこちら↓(※音がでます)1−1「胡炉玉命(コロタマノミコト)、胡炉玉命や。目覚めるのじゃ。胡炉玉命や――」「うーん、なんだい? 寝かせておくれよお。さっき寝たばっかりなのに」「胡炉玉命...

「コロ!!」 1-2話

「するっていうと、ボクはサッカーボールの神様なの?」

 思兼(おもいかね)に抱えられ、宙を飛びどこかへと移動する最中、コロは二神に尋ねてみた。

 サッカーボールの神、と先程、天照(あまてらす)は自分にそう言った。

 そこでコロはサッカーという競技に思いを巡らせてみる。

 するとどうだろう。

 ことサッカーに関することであれば、自分はなんでも知っているではないか。

 サッカーという競技は、ルール一つとっても国内外の細かい規定の違いを含めれば、膨大な数がある。しかし自分の知識は、それら全てを網羅しているではないか。しかも年度ごとのちょっとした変更なんかも、しっかり頭に入っている。それもプロだけではない、高校生、中学生、小学生、果ては幼稚園児の大会などというものまで知っているのだから、自分でも驚きだ。

 だがコロの知識は、そういった基本的ルールだけに留まらない。

 最新の戦術、戦略、個人のテクニック、最適な筋肉の使い方とそのトレーニング方法、理想のボディを作るための栄養学、試合に役立つ選手自身のマインドコントロール法及びスポーツ心理学まで、およそサッカーに必要なものは全て知っているのだ。

 高校や大学の選手の名前まで、そらで言えてしまう。

「うわあ、ボクってば、サッカーに関しては天才なんだ。すごいぞボク!」

「そんなの当たり前でしょう? 腐ってもサッカーボールの神なんだから。八百万位のビリッケツの出来損ないとはいえどね」

 天照が、腐った生ゴミでも見るような蔑んだ目でこちらを見る。先ほどの優しい表情はなんだったのか。

 きっと幻だ。

 引きこもりセットのでたらめな迫力に、自分を見失っていたのだ。

「姫、あまりいじめてはコロ様が可哀想でしょう。コロ様どうぞご安心ください」

 優しい言葉をかけてくれるのは、思兼命である。

 先ほどは、突然叫びだすなどと危うい面を見てしまったが、忘れることにしよう。頼れるのは銀髪のこの老執事、いや、この神だけなのだから。

 思兼は口元に軽く握った拳を添え、コホンとお決まりの咳払いをはさみ、話を続ける。

「まだ説明の途中でしたな。先ほどコロ様の序列は八百万位と申し上げましたが、さほど心配する必要はありません。それはあくまで、あなた様がまだ「生まれたて」であるからなのです。サッカーは国内で人気スポーツになって久しいですが、何ぶん舶来の競技。我々日本の神はどうしても、外国のものに疎いものでして、サッカーに関連する神はこれまで存在しなかったのです。オフサイドが理解できなくて、神を新設する部署がそれを避けていたのも大きな原因ですな」

「へええ、なんだか人間のお役所みたいな感じですねえ」

 なんでも遅いのは神の世界も一緒なのかと、コロは眼下の日本列島を眺めながら思う。

 なぜ自分が人間の役所のことまで知っているのか、謎ではあるが。

「手厳しいですがまさしくその通り。しかし正直なところ、サッカーの神などおらずとも、皆困らなかった。ですが先だってのワールドカップの折、それが問題になりました。日本が、善戦しながら惜しくも決勝トーナメントを敗退した折、激怒した神がいたのです。それがこちらの――」

「わたし、天照大御神様よ」

 またツルペタを強調して威張っているが、コロはもちろん口にださない。というかだせない。世界が終わってはかなわないからだ。

 しかし先のワールドカップ、日本はベスト16で敗退こそしたものの、非難されるような内容ではなかったはずだ。

 大いに善戦し、世界の名だたる強豪と、互角以上に戦った。

 国民はもちろんマスコミも、大いに彼ら日本代表メンバーを称えたのだ。大健闘といってよい内容だった。

 だが、とコロは、想像上の手を想像上の口元に当て考える。

 こいつが善戦や大健闘などで満足する器でないことは、これほど短い付き合いでも十二分に分かる。

「激怒した姫は、サッカー関係の神全員を、姫のお住まいのある高天原(たかまがはら)に呼び出しました。しかし待てど暮らせど、誰も来ません。そこでやっと我々は気付いたのです。呼んでも来ない、それもそのはず、先ほどお話しした通り、この国にはサッカーの神がまだ一神もいなかったのです。なぜいつまでたってもベスト16突破が叶わないのか。それはサッカーの神がいないからに相違ない、と姫は考えました。そして姫自ら、コロ様、あなたを生み出したのです」

「そういうこと。私直々なんて中々ないのよー。あんたはね、入念に吟味した奈良の鹿のフンから――」

「というわけで、コロ様はまだ生まれたて。八百万位からスタートするのはなんら悲観することではありません」

 今、思兼が天照の言葉を遮る前に、一瞬なにかとても悲観すべき情報が入ってきたような気がするが、聞かなかったことにしよう。そうしよう。

 コロは必死に「奈良の鹿のフン」という情報を頭から消し去りながら、質問を重ねる。

「スタート? ということはそこから上がっていくことも可能なの?」

「いかにもその通り。コロ様の頑張り次第で人々の信仰度は上がり、それに比例して序列も上がっていくでしょう。高位の神を除き、大多数の神はそうやって日々切磋琢磨し、序列という名の神の階段を上っていくのです。コロ様にも、大いに励んでいただきたい」

 頑張れば上っていける。

 なんて素晴らしい仕組みなんだ。これで燃えないなら、サッカーボールの神の名折れというものだ。いや、サッカーボールの神でなくともスポーツの神であるのなら、皆ハッスルするに違いない。

「よおし、ボクったら頑張っちゃうぞ! 一段ずつ階段を上っていくんだ。スポ根バンザイ!」

「一段ずつ? ふん、バカなフンコロね。いや、タマコロか。いい? ない耳かっぽじってよくお聞きなさい」

 折角やる気をだしたところに、またこいつだ。今度はどんな嫌なことを言うのだろう。

「神の数は八百万で固定。ということは、あんたが入ったことであぶれてしまった神がいるのよ。そいつがどうなったか分かる?」

「あ……」

 言われてみれば、確かにそうだ。ボクの前に八百万位だった神はどうなったのだろう?

 コロは疑問に首を傾げられないため、代わりに思兼の腕の中で、コロリンと転がる。精一杯疑問を呈したつもりである。

「サッカーバカのあんたに、分かりやすくJリーグで例えてあげるわ。私たち神を、あまねく皆プロサッカー選手ということにしましょう。そうすると私や爺のような高位の神は、いうなればJ1の首位チームのスタメンね。日本代表メンバーがゴロゴロいるわ。一万位以下はリーグ降格チーム、つまりJ2のチームね。扱いもJ1に比べればグッと低くなるけれど、それでも立派なプロよ。有名な選手、じゃなくて神も多いわ。J2でも上位の神は立派な社を持ってる。そこから一気に下がって400万位以下はJ3。大学生や社会人チームにたまに負けちゃう時もあるけれど、それでもプロはプロ。実力もあるし、下位の神にしかできない、ちゃんとした役目があるわ。そして八百万位周辺の崖っぷちのあんたみたいな神は、J3ぶっちぎり最下位チームの、補欠中の補欠よ。どうやってその最下位チームに入れたのかすら、分からないレベル。そして八百万一位以下になるということは、そのチームからもクビになることを意味する。プロじゃなくなる。つまり神ではなくなるの。今回神の座を剥奪されたのは誰だっけ、爺?」

「たしか「携帯用無線呼び出し機」の神だったかと」

「携帯用無線呼び出し機? なんですか、それ?」

 聞きなれない言葉である。

「分かりやすく言うと、ポケベルですな」

「ポケベル? ポケットベルのこと? そんなものにも神がいたの?」

 なぜポケベルの神がいて、サッカーボールの神がいなかったのか。この国の神々の仕組みは、一体全体どうなってるのだ。

 ポケベル神には悪いが、なんだか同情できそうにない。

「そんなもの、ってあんたねえ。九十年代には、皆が肌身離さず持ち歩いたのよ。常に心をポケベルに置きながらね。信仰が高まるのはムリもなかったわ。114106で愛してる、とか、まああんたは知らないか。今はスマホが大躍進だもんね」

「なんでだか知らないけど、知ってるよ!」

 どういう訳かコロの頭には、ポケベルの知識もしっかり入っている。

 しかし知っているからこそ腹がたつ。ボクはポケベル以下だったのか。いや、それではバトンタッチしたポケベル神に失礼か。

「まあそのポケベルの神に変わって、コロ、あんたが新しい神に就任したの。何が言いたいかっていうと、一歩ずつ階段を上るなんて呑気なこと言ってると、あっという間にクビになるっていうことよ。時代の寵児よろしく一気に登りつめた筈のポケペルの神が、これまた一気に急降下していく様は、さながらジェットコースターのようだったわ。神の入れ替えは、人々の関心によって頻繁に行われるの」

 頻繁に行われるのなら、もっと早くサッカーも入れておけよと言いたくなるが、このいい加減さだと仕方がないのかもしれない。

 話を聞く限り、この国の神々は大分ゆるい。ゆるゆるといってよい。

 それよりも、今の自分にとって大事なことは他でもない。早急に順位を上げ、神をクビにならないことだ。その1点においてのみ、天照の言うことは確かに正しい。

「じゃあ早くなんとかしなくっちゃ! ボクったらどうしたらいいんだい?」

 コロは焦って、思兼の腕の中をころころと動き回った。知識はあるし補足もしてもらったが、なにをすべきかは全く分からない。

「私と爺が監修するのよ? ちゃんと準備をしているに決まっているじゃない。さあ地上に降りるわよ、コロ!」

「コロ!!」 1-2話 了

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コロ!! 1−3話
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